このページは、毎週の週報に載せているコラムを転載したものです。そのため、内容が教会内の事柄に即して語られている場合もありますので、ご了解ください。
　一週間ごとに更新します。

【師走】

　師走と言うが、昨今の学校教員は一年中走っているわけで、もともと泰然自若としていられたのは世から隔絶した仙人くらいかもしれない。とは言え、この言葉、あわただしい日々の中でも腰を落ち着けていられてこそ「師」なのだという意味なら、何とも超然たる、かもしれないが。
　もっとも、「先生」と呼ばれていたイエスご自身は、泰然などとはかけ離れたところにあって、いつも奮闘し、食事する暇もないというふうに人々と関わり続けておられたのだから、本気で誰かの幸いを願い求めようとする師であるなら、やはり大変なのだということを思う。
　なすべきことが山積みになると誰かのことを思いやるゆとりを持てなくなると、よく言われる。目の前のことに精一杯だと、それ以外に傾けられる心が失われてしまうのはその通りだと思う。一方では、困窮する人への温かい思いというものは、自分も厳しい所にいる人のほうが広がりやすいというのも、しばしば見られるものだ。安心できる状況にいると手持ちの余裕をいくらか用いて支援などにも思いを振り分けたりするのだが、それ以上に、ギリギリのところにいる人々が小さな業だとしても精一杯の思いを持って誰かに手を差し伸べる、そういうことがけっこう多い。人の限界を考えると実に奇妙なことなのだが、でも、それが人の心というものの、否定しがたい動きなのだろう。
　12月は何かとあわただしい。精一杯走って年末の休みに倒れ込むつもりの人も多いだろうが、でもこの時期は、確かに、誰かのことを思いやる心が湧き起こりやすくもある。身近な人と一緒に過ごす時間を計画していくのは互いを思い合うからこそだろうし、募金活動の姿を見かけたり、被災地への思いを抱いたりするのも、この時期の方が大きくなりやすい。余裕ができたら、ということをしばしば皆は口にするのだが、そうではないのだと、この心は、身体は気づいているのだとも思う。つらいからこそ、互いを顧みることが欠かせないのだと。混迷する世界の中で、誰もがそのことに気づいて諦めから解放されたら、価値ある師走になりそうだ。

（2025.12.7）