ちょうど1年前、同い年の教会の仲間を見送った。この一年は、その後も教会で親しく関わってきた人たちの葬儀が続いた。その彼女は、最期が近いことを告知されて備えを進め、亡くなる数週間前の礼拝にも晴れやかな笑顔でおいでになっていた。神のもとには希望があり、だから、「眠った人たちのことで悲しみに沈まないように」と聖書にも語られている。その時が一切に終わりではないことを、神は永遠の方であり、私たちと関わり続けてくださることを、私たちは知っている。
それでも、家族にとって、親しく共に暮らしてきた人たちにとって、この別れは重いものであり、にこやかにというわけには行かないものであることを痛感する。だから、神にあるいのちの希望を知る者は、なおさらのこと、その人たちの周りにいる人々のことを思い、慰めと励ましが与えられていくように、そしてまた、日々の歩みが支えられていくようにと、祈り求め続けることが大切と、そう思う。
キリスト教には、何回忌といった儀式はない。仏教のそれは、亡くなった人がちゃんと成仏できるために必要な取り組みということのようだが、キリストがおられる限り何の心配もいらないと教えている聖書からすれば、むろん、その類の儀式の必要性はない。ないのだと明言することは、つまり、神の顧みは確かだとお伝えすることでもあるので重要だ。それでも見送った人を思う機会や、それこそ親しき人たちとの、想い出を手がかりとした交流は有用でもあるだろう。教会でも一ヶ月前には毎年恒例の墓前礼拝が行われた。私は何ともはやで、今年は参加できなかったのだが。
死の影響は大きい。誰もが、自分には太刀打ちではないと痛感させられるほどに強い。でも、神は全能の方である。そして、この方が突破できないものは何もない。神の偉大さを聖書が繰り返し叫ぶのは、ここに真実な慰めがあるからこそ、である。人々を圧倒して恐怖させるためではなくて、人々を圧倒するものを打破される慈しみ深い神がおられることを知らせるため、思い出させるため、だからこれからも、主の全能を語り続けたい。
（2024.6.30）
先日、栃木の教会に出かけた際に、保守バプテストの中で訪ねたことのある教会はどのくらいだろう、という話題になった。あまり出歩かないたちなので、ごく一部と思っていたのだが、数えてみたら、たぶん49教会は行ったことがあった。子どもの頃からも含めてだが。ちょっと驚き、伊達に長年、保守バプテストの中にいるわけではないのだなと思った次第。
牧師は、その教会での役割があり、責任があるのだから、そんなに歩き回るのは本末転倒、とは思う。単発で出かけて行ってもお役に立てることは限られていて、せいぜい、ちょっとした刺激という程度。地道に一つのところで務めることのほうがはるかに意義深い。ただ、訪ねていく側としては有益なことも多々ある。
何と言っても、様々な地で、そこに集う人たちが主を見上げて歩んでいるその姿に触れることができるのは、心楽しい喜びである。いろんな土地を巡り歩いて、そこで暮らす人々の様子を描いていくテレビ番組が人気を博しているけれど、自分の住む街とは様子が違う、でもそれぞれに日々を歩んでいる光景は、実に心地よい。同様に、それぞれの教会が歩む姿も様々に違いはあるけれど、聖書が語るとおり、主はひとり、信仰は一つ、そして同じ希望を与えられて歩んでいる、そのことを直に見ることが出来るのは、なかなか豊かな幸いである。
時に、課題を抱えている教会を訪ねる機会もあるが、何事もなかったら立ち寄る機会もなかったのだから、訪問を喜び、楽しむとは言いがたい。それに、人の目には打開策が見当たらないこともあり、晴れ晴れとした思いで帰ることにはならない場面もある。だが、私たちが信じているのは人の知恵ではなく、混乱を越えて主はそこにいてくださること。誰よりも案じ、関わってくださっている主のこと。だから、その場に立つ機会がある際には、何よりも主に委ねること、主の慈愛をと祈り願う。
とは言え、やはり、一番心地よいのは、いつも共に歩んでいる教会の人たちと一緒に主を礼拝し、顔を合わせていくこと、なのだが。
（2024.6.23）
気づいているだろうが、聖書に出てくる父たちの姿は、様々な課題を抱えているゆえに問題を発生させてしまっている場合がほとんどである。あのダビデにしても、神との関係での傑出ぶりとは裏腹に、父としての不適切さゆえに息子たちが大混乱に陥っている様子が記されている。
その様子を見ていると、世の中でしばしば語られる、良き父親像の追求といった話は、なかなか容易ではないぞと思わずにはいられない。むろん、だからといって諦めてしまっては困るのだが、でも、根本的な考え違いがこのような事態を招いている可能性も考えて見る必要がありそうだ。つまり、父たる者、一家の大黒柱として毅然として立ち、自分の動向が家族を決定づけるのだと思い込んでいること、に関してである。
実際はどうだろう。父たる者が家族の面々よりもしっかりしているという可能性は、例えば家族5人ならおそらく1/5の確率であろうし、心身の強さにおいても最上位とは限らないし、両肩に家族を抱えてという絵図もよく見られるけれど、いやいや、父たる者こそ支えられていく必要がある場面もたくさんある。むろん、父であることの特性や意義は大いにあるのだが、それは母や子ども、孫であることの意義と比較するものではなく、むしろ、様々な立ち位置が共に補い合いつつ形成していくのが家族というもの。それなのに、自分こそがと考えたり、あるいは反対に、自分には理想的な父親像などはできないのだと尻込みしたり、それでは、どれほど熱心でも、真面目に取り組んでいたとしても、良きものが生み出され得ることとは遠い事態になるのは必定だろう。とりわけ最も重要なこと、仕えること、他の幸いのために尽くすことが見失われているとしたら。
聖書には、家族は身体に類似すると語られるが、身体はどの部位であっても優劣はなく、一部で全体を支えられるわけもなく、共に歩み、共に育み合い、共に慰め、いたわるところに意義があると告げている。今日は父の日だが、本人たちが、あるいは周りが、その認識を改めていくことができるなら、この社会の様子はずいぶん刷新されるのではと思う。
（2024.6.16）
私自身がKGKに接したのは大学1年の時、話には聞いていたので、とりあえずと顔を出したら、そのままずるずると4年間はKGKで満載になってしまった。夏期学校準備委員、加入問題委員、地区の実行委員などと並べると、当時の人たちなら浸っていた様子が分かるはずだ。もっとも私だけではなくて、同期の連中には似たようなのが多く、牧師になった面々も数え切れない。もう40年以上前の話だが。
KGKの柱の一つは学生主体だと先輩たちから教えられ、何をするのも、しないのも、自分たちで選択して、責任をもっと取り組むように、主事は援助してくれるけれど、決して頼ってはいけない、これは学生自身の取り組みなのだからと、そんな志で動いていた。KGKの始まり自体が、戦後まもなくの頃、日曜にも授業をしていた大学の中で、それなら自分たちで祈りの時を持とうではないかということで動き出したのが発端。そこから他の大学での活動を応援するぞと、そうやって徐々に広がっていった。私の頃も、他大学で始まったばかりの聖研に応援にいったり、学祭イベントに手を貸したりというふうだったことを思い出す。
津田沼教会としては、KGKに関わる学生がずっと続いていることと、それから何より、吉村直人主事を送り出していたことが、一番の深い関わりだろうか。主事の期間は他の教会で活動していたので、彼からKGKの紹介を聞く機会は少なかったけれど、今さら改めて報告会を持たなくても、という感覚は強かったようにも思う。
KGKとはキリスト者学生会の略だが、内輪では、暗い学生会などと語られたこともあって、それはたぶん、大事なことを大事だと言い続けようとする姿勢が、生真面目な印象をもたらしていたためだろう。実際には暗いわけではなくて、遊んだり、与太話に興じたり、十分に明るかったと思うのだけれども、あの頃大事にされていた信念が、もし、暗いと評されるのならば、それは大いに誇らしいこと、とは思う。形態は時代により変化しているようだが、この取り組みが今も必要とされていることを喜びとしたい。
（2024.6.9）
昔々、私の親が子どもの時代には、熱を出しても、親に背負われて、ともかく学校にたどり着いたのだとか。皆勤賞狙いだったらしい。私自身は子どもの頃、さほど身体が強くはなかったので、皆勤賞なんて縁もゆかりもなかったけれども。
健康面とは別の話で、高校生の頃は、適当にさぼる、というのはよく見られた風景だった。授業の途中で抜け出していく仲間たちをそっと送り出すのも日常のこと。私は教室にいたけれど、理由は単に、学校で過ごす時間が嫌いではなかったから、にすぎない。なので、大学では人並みに授業に出ない場面は多々あった。現代の大学生には考えられないだろうが、全員出席など試験の時だけと大学側も承知の上、だった。教室の座席数が登録学生数の数分の一しかない授業もあったのだから。もっともそれらは、授業が嫌いだから出ないのではなく、ほかにしたいことがあるから優先順位が後になる、ということだったように思う。
さすがに皆勤賞が称賛される風潮は通り過ぎたかもしれないが、休むのはよくないというイメージは社会的にも相変わらずで、有給休暇を強制的に消化させるという言い方が存在する。仕事が多くて休めないという現実を踏まえつつも、休むことに後ろ向きの要素が透けて見えるようだ。
律法の中で神は、6日間は働いて週に一日は安息だと定められた。いや、もっと強い口調で、働くなと指示された。その様子からすると、あの時代にもやはり、休むことを否定する風潮のほうが深刻だったのだろうか。いわゆる休暇についてはだいぶ意識も変化した現代だろうが、それでも、仕事に限らず仲間との会合とか、あるいは日々の運動習慣とか、決めたのだから休まずに取り組むぞとなるか、それともおおらかに歩んでいけば十分だと考えているのか、なかなかに奥が深い。
などと寝床で考えていたわけではないので、余裕が出てきた証拠のようなものだろう。そういえばシオン錦秋湖では、休み息えというのが大きく掲げられている最大テーマであった。
（2024.6.2）
ペンテコステというのは、日本語訳聖書を見るとわかるように、50日という意味合いの言葉だ。過越の祭から50日ということで、格別、何の意味も持たない記号のようなものではある。
それで、教会の誕生日と呼んだりもするのだが、誕生したかどうかはともかくとして、教会が対外的に活動を開始した日、であることは間違いない。それこそ50日前は恐れて隠れていた弟子たちが、キリストの復活を知って勇気百倍、でも主ご自身からまだ動くなと止められて、それがようやく開始した時、である。人間の思いではなく、神ご自身が導き、支えて事を進めていくのだという御心が、その経緯からもよく分かる。人の思惑がしばしば混乱を招くことは、あの弟子たちの様子を見ていても痛感する。
ただ、それなら一切合切神ご自身が動かせば話は簡単、と言いたくなるのだが、いやいや、神は人を用い、人に任せようという決意でいらっしゃる。それは天地創造の時も同様で、土地を耕すことも、動物たちに名前を付けることも、神は人に任せた。そんな面倒なことをせずに万全の体制で取り組んでくだされば、間違いもないし、人も楽を出来るのだけれども。そういえば、天国では悠々自適遊んで暮らせると思っている人は多いのだが、神の方針からするとはたしてどうか、とは思う。
ともかく、そういう御心があって、それで教会が動き出した。動き出した目的は、他の人々のため、である。自分たちの間での交流や励ましならペンテコステ以前にもすでになされていた。この日の動きは、それ以外の人たちに神の祝福を届けていくためのものである。この意思も、神の心の方向性によく見られるものだ。本人の祝福は神ご自身が十分に満たしてくださるので、何も心配はいらない。だからあなたは他の人のために尽くしてあげるようにと、そういうことである。
だとしたら今日も教会は、神を信じる者たちのことだけでなく、それ以外の人たちのことを意識して歩むのが望ましい。私たち自身も、そうやって働きかけてもらって、それで今、神の幸いに浴しているのだから。
（2024.5.19）
今日の礼拝の箇所にはヨハネが出てくるが、ヨハネとヤコブの母親と言えば、息子二人をイエスの右と左にと願い求めた人として知られている。
すごいものだなあ、と思う。イエスはその時、この道に伴う痛みと苦しみを担う覚悟はあるのかと兄弟に尋ねた。彼ら自身は胸を張って、もちろんですと答えたけれど、母親はどんな思いだったのか。我が息子たちが厳しい生涯を歩むことを切望することになったのだと、自分の行動の意味をかみしめたのだろうか。
母に限らず、親というものは、しばしば、我が子に対して過剰な思いを抱く。それが何を意味しているのかを客観的に考えることもなく。むろん、その子の生涯は本人のものであり、本人が選び取っていくものである。平穏な日々も厳しい歩みも、自らの覚悟と責任である。最終的には親がどうこうというものではなく、また、そうであるべきだ。親の意思の下に縛られているなど、結果が良かったとしても、望ましいものではない。が、そうだとしても、親の影響は様々にあるので、時に、過度の関与によって混乱が生じてしまうことはある。聖書にも、そういう動きの結果、課題を抱えることになった人々がいた事例は何度も出てくる。
でも、そのことを理由として、神が親たちを叱りつけている場面は、まず見られない。ヨハネたちの母も、愚かな願いをと戒められてはいない。神は、親というものが我が子に向ける思いのゆえに、しばしば情けないことになるのを承知されているのだろう。そしてまた、その結果について背負うのは本人たち、子どもたち自身であるからこそ。
だとしたら、と思う。そうであるのなら、なおさら、親の立場にいる者たちは、我が子について何を願い、どのように求め、そして、関わっていくのかについて、より真剣に尋ね求めることを欠かすべきではない。その行動の結果が、自分自身にではなく、大事に思っている我が子にかぶさっていくのだからこそ。親であることの試験はなく、資格も、認定書もない。それゆえに、我が身を振り返りつつ、主の幸いをその子にと求めていきたい。
（2024.5.12）
昔の懐かしい讃美歌を聞いていたら、「わがままを捨てて」という歌詞が出てきた。わがまま、というのはよろしくないこととして語られることが多いのだけれど、では、何かを望むこととの違いは何だろうか、と、気になってしまった。
願望、要望、希求は何も悪いことではない。イエスご自身も、何でも欲しいものを求めなさい、と語られている（ヨハネ15:7）。けれど、それと似て非なるものがわがままと呼ばれる。それは願い求めるのではなくて、自分の力で獲得しようとする行動だ。
そうやって手に入れた場合、称賛は当然に自分自身に向けられる。感謝は出てこないし、手にした一切は自分の思うままに用いる。もしかすると他者とも分かち合うかもしれないが、それは自分の温情にあふれた心が素晴らしいから、の行動である。獲得するためには、持てる力を全面的に注ぎ込む。周りの迷惑などは考える余裕はない。いや、そんな不都合などは、自分の欲求実現を妨げる邪魔者だから、断固として排除し、二度と妨害できないようにするほうが効果的だ。そういうことになってしまう。
誰かにしてもらう場合でも、相手に要求し、強いているならば、わがままとして分類され得る。おもちゃ売り場で泣き叫んで親に言うことを聞かせようとするのも、自分の力で実現を図ることだから、まさにわがままである。そう、鍵は、誰の力か、である。
わがままではない欲求は、願い求める姿勢によって保たれそうだ。お願いするのだから、丁重になるだろう。心からの感謝も生じるだろう。そして、願いをかなえてくれるかどうかは相手の判断次第なので、委ねるということを意識するしかない。神に対してなら、まさに、御心のままに、である。自分の手足を動かして取り組む場合も、そうさせてくださる神の祝福が土台だと気づいているなら、額に汗して獲得した場合ですら、感謝は生じてくるはずだ。そうしたら、手にするための手法も、得た後の行動も、大きく変化するに違いない。そこに、わがままではないものが成り立つ。
（2024.5.5）
近所に住宅の新築工事をしているところがある。先日の朝、ゴミ収集車が来るよりも早く、たくさんの木材を積んだトラックがやってきた。眺めてみると、模型のパーツのようにきれいに加工してあって、そのまますぐに組み立てていける様子。実際、枠組みが始まると、どんどん進んでいき、夕方、帰宅したときにはもう、屋根がかけられていた。すごいものだと感心する一方で、奇妙なものを見ている思いもあった。家を建てるというのは、もっと複雑さがあって、職人技みたいなものもあって、苦労しながら少しずつ作り上げられていくイメージがあったからだ。
実際的な話としては、工場で仕上げてあるので現場での音は控えめで済み、隣近所としてはありがたい。電動のこぎりが響くことはない。それに、整えられた部品だからこそ、腕自慢の人でなくても作れる。何より、工期が短くて済む。ということは、である。こういうやり方は、家を欲しがる人たちの要望に、より多く応えられることになる。
だとすれば便利な手段というものは、大いに歓迎すべきものなのかもしれない。私だって、こうしてパソコンを使い、印刷機を使っている。ガリ版とかを使っていた昔とは大違いである。手紙も手書きを減らした。いくら心を込めるつもりでも、読みにくくては仕方がない。優先すべきは伝えたい言葉が相手に届くこと、だと割り切ることにしている。むろん、利便性ばかりを追求するわけにはいかない。面倒でも、苦労が多くても、それでも地道に、時間と手間暇をかけてなすべき場合もあるはずだ。
そこで問われるのは目的だろう。その利便性を用いるのは、やりやすさのためなのか、それとも、誰かのために役立つからなのか。これからもきっと、機能的な便利さはますます進んでいくのだろうが、だからこそ、いつも意識していたい。隣人を自分自身のように愛するためには、どっちが良いのだろうか、というように。神は人に、神ご自身を思う心と、そしてまた、他の人のことを思う心を備えてくださった。この心、この観点を常に動かし続けていければ、迷うときにも、より良い選択が出来そうである。
（2024.4.28）
仕える、という言葉は嫌がられることは多い。穏やかな呼びかけがなされていても、背中に罰則が隠されていることもあるからだ。しっかりやることが鉄則とされて、ほどほどという感覚はいぶかしがられている。
でも、神の御心からすれば、その源にあるのは喜びである、せねばならないという部類ではなくて、取り組みたいからこそという意識が優先される。人間の身体は一つしかないので、同時に二つのことはできない。ということは、大事だと思うことがいくつかあれば選択が必要になるし、折り合いを付けながら取り組むことになる。
専念という言葉があるが、これは他の事柄は放り出す決意をして、あることに集中する姿だ。そのように導かれる者もあるが、神が人に与えている生き方の本来の姿は、もっと幅広く、様々なことに向き合う部類のものだ。大半の人が専念的な取り組み方をするのは、神が造られた世界の常態とは言いがたい。
教会での事柄も、あるいは個人的に誰かを手助けする取り組みでもそうである。他のことを横に置いてでもなすべき場合もあるだろうが、それは神が造られた世界のあり方としてはかなり例外的である。それぞれの事情により、出来るときに取り組んでいくというほうが、御心に沿う生き方としてはむしろ常態である。それに、そのくらいの意識でいないと、他者の様子にいらだちを覚えたり、あるいは自分のことを責めてみたりとしかねない。神はせっかく、良いものを生み出し、育む楽しみを与えてくださっているのに、きつさが先になってしまうのでは、やはり変なのだ。
そんなことでは立ちゆかない、という声もある。でも私は神の導きを信じている。事をなさせてくださるのは神なのだから、その時々に動ける人たちを備えてくださるに違いないと。我関せずではよろしくないのだが、意識しつつ、その上で、なし得る程度に。それは毎週という人もあるだろうし、年に一度はという人もあるだろう。そういう様々な姿が結び合わされながら、御心にかなう価値あるものは形成されていくはずなのだ。
（2024.4.21）
この会堂の外壁、建てられた際はコンクリート打ちっぱなしの様式だった。その頃からいる方は覚えておられるだろうか。当時のはやりの様式であったように記憶している。そのままだと単調になってしまうということで、設計者は部分的に削ることで色彩的な効果を施す妙手を駆使していた。年月が経って、さすがに雨水に耐えられないと塗装を行ったのだが、全体のイメージを変えないようにと、灰色の塗料を使った。それからまた年月が過ぎて再度の外壁塗装をしたときは、元の色彩効果を再現するために、塗料の色合いを二種類にして明暗を着け、なかなかいい趣になったと思っている。むろん、一番の理由は雨水対策で、屋上の防水工事もその際に初めて実施した。こういうものは経年劣化が当然なので、いずれまた行うことになるのだが、現状では問題がない。
と、物事は内面にこそ意義がある、と言われる。確かに、内側がボロボロの状態ではどれほど外側を着飾ってみても何の意義も発揮しない。装飾品ではなく心の美しさで身を飾れ、という話もある。ただ、外壁塗装のことを思い浮かべると、内面の充実に全力を注いだとしても、もし、外側を顧みずにいるとしたらかなり危ういことになる。劣化した外壁からは雨水が浸透して内部を崩してしまうし、町の外壁、あるいは心の外壁が衰えると、攻撃に対抗できずに敗北してしまうことも大いにありえる。内側をおろそかにするのは深刻な過ちだが、外側を放置するのもまた愚かなことであろう。
建物の外壁は業者にお願いすれば対応できるが、心の外装、あるいは人の生き方、暮らし方においては、どんなことがありえるだろうか。まず、心の内に思いを抱くだけでなく、それをちゃんと表明し、行動することが役に立つだろう。むろん、良き思いを、ではあるが。他者に分かってもらえなくても自分さえしっかり生きていれば、というのは真実であると共に、良きものを持っていると確信するなら、人々にも楽しんでもらえるように、微笑みをもたらし得るように、表していた方がいい。誤解はする方の問題でも、誤解されない工夫は、その相手のためにも有意義であるのだから。
（2024.4.14）
新年より、新年度のほうが何か、新しさを意識するように思う。きっとそれは、暮らしの中での変化が大きいからだろう。現代日本では、1/1は節目としての印象は強くても、日々の取り組みは同じように続いていくに過ぎず、お休みがあるから区切りを意識する程度だ。でも4/1は生活に変化が生じる場合は多い。自分自身はさほど変わらなくても、周辺には新しい暮らしに移行する人たちが必ずいて、いろんな動きが生じる。
つまり、理念的なことよりも実際の取り組みにおける変化こそが、人には大事な転換であるということになる。それなら、神との関係においてはどうだろうか。神を知った、神を信じた、クリスチャンになった、そういう分岐点は、とても意義深く、決定的な節目でなる。でも、それだけでは十分とは言いがたいようだ。神が人を造ったときも、土地の塵から人を形作り、けれど最も大事なことは、神がそこにいのちの息を吹き込まれたことで、それで人は生きるものとなりえた。かたちがあるだけではなくて、いのちの息を宿して、生きるようになってこそ、というように。
それは何も、一生懸命に頑張って動き回れ、という意味ではない。よく貢献したのでご褒美として息を吹き込んでもらったという話ではない。人形がいのちをもらう話では、そういった部類のものが多いけれど。でも神は人がまだ何もしていない時に、まずは神のほうで息を吹き込んで、それで事は動き始めたのだと告げられている。だとしたら、そこに人がいて、生かされているならば、ただその一点こそが、最も重要なこととして神の前には意識されているということになろう。自分には存在意義はないとつぶやく人は多いのだけれど、それは大いなる勘違い、神は決してそんなふうには見ていないのだと、聖書は語っている。そして人は生き、歩んでいく。
すでにあちこちでの入学式は済んでいるのだろうか。新社会人たちは働き始めて、今が初めての週休かもしれない。どうかその日々が、これからの歩みが神様にあって守り祝されていくことをと、心から祈り願いたい。そして、声高らかに、その幸いを喜び歌えるようにと。
（2024.4.7）
桜の花が咲き始めた。驚いた。ここのところの寒さで、芽はまだ固く閉じているように見えていたからだ。人の目には春はまだ遠いぞと思わせられる程度の動き、それでもなお、草木は生き生きと反応をするようだ。そうなのか、とちょっと信じられないような思いで、でも、それが事実である。
いやいや、人にとってもそうなのかもしれない。昨日は通りを歩く人の姿が多かった。土曜だからというのもあるだろうが、春の陽の輝きに誘い出されているように見えた。そんなに意識しているわけではないだろうが、春が訪れると、自然界も、人の暮らしも、社会としても、良きものへの期待を増しながら動いていくようだ。そういえば春闘というのも、秋闘ではあまり前向きの話にならなそうで、やはり、春か、とも。
この人生は、と考える。人の齢には限りがあり、神が語られた120年という数字にすら到達しない。人の手が作り出したものでもはるかに長い時間を経ていけるのに、ずいぶん小さなものに過ぎないと思わせられることは少なくない。でも、祝福というものが本来、人の目が見ている、意識しているあたりを飛び越えて備えられるのなら、話は全く違う。春の到来ですらそうなのだから、神が与えてくださっているものは、私たちが思っているよりもずっと明るくて、輝いていて、そして、幸いは約束されている、そのことを言いたいのだ。
イースターの日を迎えている。神の御子であるキリストの復活を祝う時であるが、イエス様良かったですね、という話をするためにこの日があるわけではない。主のよみがえりは人々のため、人に幸いを実現させるためのものであって、だから、おめでとうの言葉は、人が互いに言い交わすためにこそある。イースターの出来事は、人からすれば実に不思議、考えもしなかったこと。でも神は人の限界などに縛られない、人が予想しているよりもずっと力強く桜が花開くように、その祝福は人を驚かせ、唖然とさせ、そして広がっていく。だから、今を生きている時も、そしてまた先へと歩みを進める時も、主への期待を抱き続けたい。
（2024.3.31）
春の光景と言えば、公園のベンチにのんびりと座ってコーヒー片手に読書、ついでにうたた寝でもして、という思いがある。今それをやると確実に風邪を引いてしまうが、さりとて夏は熱中症が恐いし、やはりこれは春のイメージである。そういえば、一昨年の桜の時期、公園のあちこちにシートを引いて車座でおしゃべりしている人たちを見かけた。まだまだ風が冷たかったのだが、ようやく人が出始めていた、素敵な光景だった。
と言いつつも、そんなふうにゆったりとした時間を過ごすことがほとんどない。夏の休みに旅に出ても、歩き回っているほうが多くて、夜に寝静まってから、宿に良い感じのラウンジでもあれば、飲み物片手にしばし本を拡げている時くらいだろうか。
パウロは、目標を目指して走っていると言っていたが、きっとそれは今の私たちの感覚とは大きく違う。一日の時間の使い方も、一年の歩み方も、私たちのそれは走っているというよりも、慌ただしく追いまくられているというほうが近い。大切なものをしっかり見つめて、誠実な取り組みを進めていくことと、あわただしく振り回されていることとは全く別のものだ。頭ではよくよく分かっているつもりなのだが、どうもうまくいかないという現実はどうしたものか。
で、受難週である。が、年度末でもある。静かに落ちいて思いを巡らす、などということはできそうにもないので、夢物語は横に置いて現実的なことを意図してみる。慌ただしくてもいいし、静かに座っていなくてもいいので、何か出会ったこと、悩ましいことでも、良いことでも、その時に思い出してみるのだ。主は救いを成し遂げて、私たちに希望を与えてくださったのだということを、である。それが笑顔を育んでくれるのか、希望を見出させてくれるのか、勇気を与えてくれるのか、慰めなのか、どんなことにつながるのかは様々だろうが、でも、主のなしたことはそのとおりなのだから、しかも、人にいのちを与えるためのものなのだから、それならきっと、バタバタしている日々の中に意義があるのだろうと、そう思う。
（2024.3.24）
この秋には郵便料金が上がるようで、参ったなあ、と思っている。客観的に考えるなら、今の値段は驚異的ではある。電車の初乗りより安価に、日本全国どこにでも届けてくれるのだから。それでも、この値上げできっと、郵便離れは加速するのだろうとは思う。年賀状という習慣自体が消えてなくなるのかもしれない。メールとかLINEとか、連絡方法は色々あるのだから差し支えないと考えることもできるけれど、これまでずっと選択肢が広がっていくという形での便利さを手にしてきたことを思うと、下降線的な変化にはちょっと寂しい思いもする。
手段はともかく、連絡が取りにくくなるのは深刻だ。引っ越し先が分からなくなったり、電話番号が変わってしまったり、そして、通じないという事態もまた心にひっかかる。いやいや、電話など出ない自由もあるのであって、放置するのもまた権利。既読スルーも、既読しないのも、その人の気分次第のことであって、完全に自由の領域の話だ。その通りなのだけれど、でも、容易に伝えられていたはずのものが滞るのは、何かが失われたような思いになってしまう。
神はどう思っていらっしゃるのだろう。人に対して、この世界に対して、その呼びかけが届かないという実情について、である。昨今の機能的な事柄のゆえではない。大昔から続いていることであって、つまりは、人の心が呼びかけを拒んでいるという、そのことについてである。全能の力でその人の心に、耳に直接語り掛ければ、などと人は思うのだが、あいにく、そんなことをしても届くとは限らない。ネットはつながっていても、スマホは持っていても、それでも音沙汰がなくなるのと同様に、通信というのは結局、当人同士がつながる気があるかどうか次第で、それは神との関わりも同じなのだから。しかも人は神とは異質のところにいようとしている。
神は聖書という、人の言葉を用いた呼びかけをし、あるいは人間たち同士の間で語り伝える手法を用いている。それらは切なる神の心を表すものだ。その呼びかけにどう応ずるのか、私たち一人一人が問われている。
（2024.3.17）
先日、千葉県では大きめの地震が続いて、県でも家庭備蓄を呼びかけていたようだった。いくらか落ち着いたようでもあるが、警戒は怠るなと言われている。日本のあちこちで小規模な揺れが起こっているようでもある。そして明日は東日本震災の日にあたる。
災害への備えというのは、何をどうしたらいいのだろうか、と思う。数日程度の水と食糧というあたりのことは、昨今は常識の範囲になってきているようで、必要なことだと思う。が、そこから先となると、なかなか手を着けられないことが増えてくる。本物の緊急事態は、日常の延長線上では対処できない部類のことで、個々人の取り組みでどうにかできるものではないし、あるいは市町村としての取り組み程度でも何ともならない。結局のところ、災害から自らの身を守る努力というよりも（それはそれで大事なのだが）、そのような事態が起こったときに、他の人々が、他の地域が、どうやって支援を進めていくのかという、支えるための知恵と力の必要性が、より重視されるのではないか。
これがなかなか難しい。他者のことに、しかも、今のところ何の問題もない状況のために必死になるのは、相当の覚悟が必要だ。このまま安全無事であるならば、備えが無駄になることもあるのだから。それに、現に苦しんでいる人なら助けて欲しいと切に願うだろうが、問題を感じていない時に援助の申し出をされても、戸惑うか、反発すら生じかねない。だから、支えるための備えというものは、覚悟と決意、あるいは、強い義務感、使命感が伴わなければ進めていくことが困難だろう。でも、何か事が起こった場合には、そういう備えが必要になる。一大事と判明してから取り組む支援も尊いが、それでは間に合わないこと、対応できないことはたくさんある。だからこその備えであるのだが。
ふと、旧約の預言者のことが思い浮かんだ。民は現状にさほど違和感がなく、騒ぐようなものではないと思っていた時に、預言者は危機を語り続けた。人々に煙たがられ、疎まれても。備えとはそういうものなのだろう。
（2024.3.10）
植物学には詳しくないが、春の到来を告げるのは木々の花々で、若葉が芽吹くのはもう少し先になる。無骨な枝に撒き散らされた花色が冬から春への変化を思わせてくれる。「枯れ木に花を咲かせましょう」という昔話の台詞は、なるほど、とうなずかせられる。
植物は本来、葉っぱが光合成を行って養分を生成し、それによって生きていくはずだ。それなら、葉がない状態で、多くのエネルギーを消費する花を先に咲かせるのは、何だか整合性がとれないようにも思う。葉が出てしまうと花が隠れて蜜蜂などを招くのに不都合などの事情はあるのだろうが、それでも、冒険と言えそうな光景である。
安全策は大事である。闇雲に突進して、無茶をするのはあまりお薦めできない。スポーツの試合だって、勝つためには体力の温存、配分は最重要課題の一つで、そのあたりを見誤るとどれほど力量があっても崩れる。
それなのに生産を始める前に花をつける。よほどの蓄えがあるのだなと、ゴツゴツした木の幹を眺めながら感嘆せずにはいられない。しかも、冬の寒さを乗り切ったばかりだというのに、である。冬眠した動物たちは、まずは食べることに専念し、様々な動きは後回しだというのに。
植物の構造はともかく、人にはそれがあり得るのかどうか、と考える。この身体は、とうていそういった可能性は見いだせない。どれほど鍛えたとしても、水と食料を摂取し続けなければ、歩くことすらできなくなる。自らの内側には拠り所はなさそうである。とすれば、外側に頼るしかない。そう、自分には余力がないとしても、もし、誰かが支えてくれたら。物質的なこと以上に、この心、この思い、そして信仰もまた、誰かが支えてくれるなら。そのためにはつながっていなければ。木々が根を張るように、人との関わりを大事にと。そして何より、神ご自身が私たちに注ぎ込んでくださる祝福は、寒風の中に花開くための欠かせない源であろう。枝は幹につながっていなければ枯れる、と語られた主の言葉は、人々を案じ、その祝福と喜びを切に願うからこその激しさを伴っているのだと、この季節に思う。
（2024.3.3）
街の中に見かけるポスターとか看板、かなり古びたものがずっと残っているものがある。色がくすんでいたり、さびが出ていたり、欠けていたりとか。はじめに思ったのは、忘れ去られているのかな、ということ。こんなになるまで放置されているなんて、と。誰にも関心を持たれず、投げ捨てられている残念な存在、というように、である。
でも、眺めていて、別の思いも浮かんだ。そうか、これはずっとここにあるのだ、あり続けているのだ、と。お店の看板なら、そこまで古びるほどに長い年月、ここで営業が続けられているという証拠。選挙のポスターなら、この家はこの政党をずっと応援し続けている、昨日今日の浅い関わりではなくて、それだけの思いを込める価値がありますよと、色あせた一枚が物語っているようにも見えてくる。
古きものを遺物と言ってしまうことは多い。でも、華やかに賑わっているのもいいことだけれど、長く続いているということもまた、その存在が大きな価値を発揮し続けていることの表れとも言える。だとしたら、見かけは古びているとしても、それが劣化を示しているとは限らない。外面だけでは何とも言いがたいのだと、そういう心づもりを忘れてはいけないのだなと、教えられているような気分になった。
そこに居続けることと、通り過ぎていくだけのものの違い、ある一瞬だけを切り取るなら、そこで発揮されている魅力が全てだろうが、長い年月を経て続けられるものは一瞬の意義だけでは済まない。旅の恥はかきすて、とはどうせ通り過ぎて消えていなくなるだけだから、という感覚が背景にある。でも永遠の神が取り組んでいるのは、その瞬間さえ、などではなく、ずっと残り続け、だからこそ後々まで問われ続け、検証され続ける、それに耐えうるような確かさを発揮していく部類のもの。一方で、人が思い浮かべているのは大概、その場だけ、目の前のことばかり。そう考えると、私たちはもっと大いに期待して、待ち望んで良いのだろう。神が注いでくださる幸いを、である。人の思うところを素敵に裏切る神の恵みを。
（2024.2.25）
昔々は、ものを書き留めるというのは、それだけで至難の業、膨大なエネルギーを必要とする取り組みだった。粘土板、パピルス、羊皮紙などは準備も大変だし、保存も大変、そして書くこと自体も大いに時間がかかる。紙が普及するようになっても、一文字ずつ書き留めていく作業は手間が必要だ。ドラマで平安貴族が何かを書いている場面があったが、実にゆっくり、一点一画を慎重に筆を置いていく様子で、「筆を走らせる」などというものとは無縁の雰囲気、こちらのほうが昔の現実だったのかなとも思う。そういう状況の中で源氏物語のような長編をしたためたのは驚きでもあるが。
パソコンが普及して、この手間が大きく変化した。キーボードで打っていく作業は、手書きよりも格段の速さである。それを紙に写し出す工程も数秒で済んでしまう。写本という取り組みは、今では情報の拡散を意図するものではなくて、その作業自体への思い入れによるのではないか。すでに印字という取り組みが割愛されて、画面上に示されているデータを見るだけに変化しているのも実態。印刷という概念自体がいずれは過去のものになるのかもしれない。
私自身、こういう利便性の恩恵を受けていて、そうでもなければこんなふうに毎週コラムを書くことなどできるはずもない。でも、この速度というものを少し気にしておきたいかな、とは思う。ざっと眺めて通り過ぎてしまえばそれでかまわない、という部類のものなら、パタパタと打ち、ちゃちゃっと印刷して配付すればそれで十分とも言える。でも、その文章がもともと生み出された時点では、ゆっくり時間を掛けて書き留められていたのだとするなら、サクサクと読み進めて分量を稼ぐよりも、そこにある一文に滞留して思いを巡らしていくこともまた、大きな意義があるのではと。
聖書もその一例で、たくさん読むことが奨励されていて、もちろんそれは意義のあること、それでもかつては朗読されるのを聞くという方式が人々が聖書に触れる基本的な手法だった。それなら、速くても読み上げるスピード程度、そういう滞留が新たな発見をもたらすかもしれない。
（2024.2.18）
高校の頃、新京成から京成に乗り換えて通学していたが、京成線が事故などで止まると、JR津田沼駅前からバスに乗って学校に向かったことが何度かある。が、あの道はすぐに渋滞にはまり、バスの中でじりじり待つことになる。しびれを切らしてバスを降り学校まで走るという仲間たちが結構いた。もっとも、走っている途中で動き出したバスが横を追い越していく、というのもよくあること。笑って済ませられたのは、体力一杯の年代だったからであろう。
知恵を働かせて最善の道を探し求めていくのは、とても有意義なことだと思う。何も考えずに放置しているのは、せっかく考える能力と選択肢を与えてくださっている神に対する侮辱ではとも考えたりする。けれど、その判断がかえって状況を困難にする場合も決して少なくはない。人の知恵というのはその程度のものなのだと痛感させられる事態は、かなり多い。あの時、慌てず落ち着いて待っていれば、などとも。私の判断は絶対に間違わない、と豪語できる人はすごいと思うけれど、100%などという人はいるのかどうか。むしろ、多くの者たちにとっては、迷い続けてうろうろするというのが実情であろうとも想像する。
どちらが良いか悪いかという話は、簡単には言えない。それに、慌てずに立ち止まっていることにするのもまた、その人の判断、決断であって、無の状態というわけではない。だとすれば、人のあり方として必要なのは、まず、自分たちの判断は常に限界があるのだと自覚しておくことと、それから、個別の判断の是非とは別に、基軸になる理念・価値観をしっかり持ち続けていることだろう。たとえば聖書には他の人のことについて、キリストが犠牲となられたほどの存在、という概念があり、その認識を土台として関わっていこうとするなら、個々の判断ではしくじりを犯すことがあるとしても、その全体としてはきっと御心にかなう、そして人々にとっても幸いへの道筋となり得るものが実現していくのではないか。そのように神に期待しつつ、歩んでいくことが、人になし得る最善であるかと思うのだ。
（2024.2.11）
子どもの頃は、秋田県の小さな町に住んでいた。教会学校には、そこそこには集まっていたように記憶しているが、印象深かったのは、夏休みが近づくと急に多くなる、という現象だ。理由ははっきりしている。開催していた夏キャンプに参加したいから、である。キャンプだけというのはダメ、ということになっていたので、少し前から通い出して、というように。まだまだ家族旅行など一般的ではない時代、山の中にある異世界的施設（錦秋湖）での数日は、子どもの心を深く捉えていた。親たちとしても、安価な費用で子どもたちを連れて行ってくれるのは大歓迎、という様子だった。
この教会が始まった頃、あるいは牧師になって都内の教会に赴任した頃も、近隣の子どもたちがたくさん集まってきていた。親たちの弁としては、ゆっくり眠りたい日曜の朝に、子どもたちを預かってくれるというのは実にありがたいと。教会によっては、親の寝坊で朝ご飯を食べずに来る子のためにと準備をしているところもあったと記憶している。24時間働けますかと宣伝されていた頃で、親たちも疲れていたのかもしれない。
その後、社会の雰囲気が変化して、日曜は子どもたちと一緒にお出かけをする、という親が増えてきた。そうなると、うるさいから教会学校にでも行ってなさいと送り出されていた子らは減少し、土曜に実施した方がいいのではないかという話が語られるようになった。オウム事件の後は、見知らぬところに子どもを送り出すなどありえないと警戒心が強くなり、親も同行しない限りは来ない、という風潮が一般化し、毎週のCSに一緒に来る余裕のある親は滅多にいないので、各地の教会学校は閑古鳥と言われるように。
社会の様子は変わり、家庭の考え方も変わっていく。こういうものは何かの行動を起こせば変化させられる、わけではないだろう。でも変わらないのは、社会には子どもたちがいて、その一人一人は神の祝福を受ける権利があるということ。だから教会学校はその取り組みを続けているし、精一杯、子どもたちのために労し、そして、祈り続ける。子どもも、大人も、誰もが皆、神様の恵みを味わい楽しめるようにと。
（2024.2.4）
この季節になると、夏がいい、という台詞を口にすることが多い。あの暑さはという声もあるが、私個人としては、どんなに暑くても冷え込むよりはましという思いだ。昔、子どもの頃はそんなことはなかった。雪が降ろうが、つららが伸びようが、元気に走り回っていたものであるし、千葉に来て雪に震えている人々を横目にいささかも動じなかった。太陽の熱がないとたまらないとうめいている今とは、大きな違いだ。
理由は単純、身体そのものが発している熱量が変化したからだ。さすがに冷えすぎて動かない、ということはない。教会の玄関に置いてある非接触型体温計は、本体が冷たくなりすぎると動作不良になるが、身体はそこまではいかない。生命が宿っているのだから。それでも、子どもの頃のような熱の発散は見込めず、それで、夏がいいと騒ぐに至ってしまう。ようは、基礎代謝を上げていけばいいのだと、頭では分かっているが、ついつい後回しにしているので、文句を言う資格はないと自覚。あれこれ言うのは、自業自得と自らを笑う意味合いが強いのだと、耳にした人は思ってくだされば。
身体はそんなもので済んでいるけれど、済ませているけれど、心のほうはどうなのだろう。心が冷たい、という言い方は別の意味になってしまうが、心の熱量が下がってきて、感動とか感銘、あるいは悲しみ、嘆き、あるいはまた怒り、憤慨といったものが作動しなくなってきているとしたら。本人はきっと、さほどの不都合もなく生きているのだろうし、むしろ、心穏やかに暮らせてちょうどいいと感じるのかもしれないが、でも、熱くも冷たくもなく過ごしていたら、大事なことを見落としていそうではないか。神とのことも、人との関わりでも、こんなものだろうと済ませて、突っ込んで向き合ってみることがなかったら、途絶えはしないだろうが、より豊かなものに出会うことなく通り過ぎてしまいそうである。
神様のこと、こんなものさ、とは思わずに、積極的な疑問とか、問いかけとか、なぜですかと詰め寄りたくなることとか、そういうのをぜひと思う。そういう向き合い方が心の基礎代謝を向上させるであろうから。
（2024.1.28）
先日、知ったこと。葛湯であるが、湯とあるので、ごくごく飲むものだと思っていた。スティックのものなど、マグカップにたっぷりお湯を注いで、コーヒーなどのようにして飲んでいたのだが、いやいや、ゼリーのようにしてスプーンですくって食べるのだと、この歳になって初めて知った。やってみたら、実に美味でもあった。
知らないこと、いや、勝手に思い込んでいることはけっこうありそうだ。葛湯なら薄めて飲んでも害はないけれど、危ういことを取り違えていたら、勘違いを笑ってはいられないことにもなる。
対策は二つある。一つは、きちんと分かっているもの以外には手を出さないこと。目新しい、これまでの人生で接したことのないものは避けておく。そうであれば、取り違えても深刻な害はないだろうくらいは見定められる。ただし、今までに出会ったことのない良きものを手にする機会を、自ら封印することになる。
もう一つは信頼できる相手に教えてもらうこと。そういう紹介ならきっと危ういことはない。好みかどうかはともかく、まずい事態に陥る可能性は回避できる。冒険が可能になる。そういえば幼子は親にあれこれと尋ねまくるのだが、新しきものに出会う機会をたくさん手にして、かつ、危険を避けるという両方の意義を成り立たせる、生まれ持った技能であるのかもしれない。大人になると、あんなふうには、なかなか聞けなくなるのだが。
で、神様のこと。これまた、人間としては馴染みのないことが多く、人の思い描くこととのずれは甚大なものだ。罪人を救うなど、人の世界では冗談もほどほどにと言われてしまいそうなことでもある。避けておくのも一つの手だが、しかし、人にとって欠かせないものを失う事態になる。だとしたら、聞くしかない。幸いにも神様は、よく語り示して下さっているので、じっくり丁寧に尋ね求めながら、何だ、そうだったのか、に出会っていくのが一番。急ぐことはない。一つ一つ、じっくりと。ここまで把握できないと失格、みたいな話はどこにもないのだから。
（2024.1.21）
最近になって気づいたのだが、ある程度年齢を重ねていると、5歳、10歳程度の違いは同世代として認識するので、そういう相手を見て、近頃の若いもんは、とは言わない。62歳の人が61歳の人をつかまえて生きてきた年月の少なさを指摘していたら、お笑いぐさだ。けれど、若い頃は数年違えばその言葉を使い、学年が一つ違うと天地の差のような感覚を抱く。自分自身も覚えがあるのだが、何とも奇妙な話だ。
だとしたら、圧倒的長寿の人がいたらどうなるか。千年、二千年を生きる人がいるとしたら、たかだか百年の一般人が年齢差で騒いでいるのをどんな思いで眺めるのだろう。人間はともかく、千年の歴史を持つ街と市制百年とかの街との比較ならできる。そうなってくればもはや、長いとか短いとかではなくて、今そこに何があるか、どんな魅力があるかに意識は向けられるのだろう。さもなければ、千年、二千年と同じ場所に街が存在し続けることができた幸いを喜ぶ、ということか。それなら、十年でもあるいは一年でも、同じ思いで接することが出来る。今日も元気で良かったねと、互いのことを幸いと思い、お祝いし合うことができるのだろうが。
人はしばしば違いを見つけ出して、違いを語り、優劣を語り、そして争う。見つけ出して、である。さほどの違いでもないのに、である。何より、神の前にあって、何を持ち出して、他の人よりも優越だと言い張るのか。その前にあっては、何歳であろうが、何かの特色があるとしても、実績のようなものがあったとしても、「私はこんなに・・・」と言い張るのは笑い話にもならない。その神が人に向かって語り続けているのは、互いの存在を喜び、その幸いを感謝し、ああ良かったと語り合うこと。年齢も、能力の類も、そして実績も。それらが無意味だというのではない。神が与えてくださった賜物なのだから、肯定し、評価し、活用するのはもちろん。否定したり、投げ捨てるようなものではない。それでも、それらを理由にして優劣、上下を語るのは全くもって意味をなさず、せっかくの幸いを壊すものでしかないことを、この人生を歩む中では知っておきたいものと思う。
（2024.1.14）
新年早々、尋常ならざる事態が続いてしまっている。こういう場合、何でこんな時期に、という声が出てくる。人は思うのだ。皆がお祝いしている時なのだから、考慮して差し控えてくれてもいいのに、というように。
冷静に考えれば、大地の揺れ動きは人間社会が自分たちの都合で決めた暦に影響されるわけはなく、何らかの意思によって時期が選択されたわけではない。それに、配慮してこの時期は避けておこうなどということがあり得たとしても、それなら別の時期なら良い、などという話は成り立つはずもない。災害に都合の良い季節など存在せず、未来永劫に避けたいものでしかないのは言うまでもない。だがそれが実現しない。そのように考えていると、人というものの小ささを、今さらながら痛感させられる。
けれど、そんなちっぽけな存在に対して、神はしばしば相当に大きなことを呼びかけ、求める。大事なことが実現するように、それはお前たちに任せたというように告げられる。誰かを大事に思うこと、愛すること、地震の関係で言えば、救援や支えのために精一杯の取り組みをすることなどのように、である。あるいは、いろいろ事情があってつらい感情に至っていたとしても、それでもなお、誰かを傷つける行為に出ないように自分を抑え、あるいは互いを補い合って抑えることについても。
容易ではないと痛感することも多々あるのだけれど、でも、大地がいつ揺れるかを操作することと比べてみたら、桁違いに可能性は大きく、実現は決して夢物語ではない。現に今この時も、被災地では多くの人々によって精一杯の取り組みがなされている。社会一般にも、以前なら、ともかく感情の赴くままに物資を送ったり、案じる思いが募って様子を見に行ったりということがあったけれど、今回は冷静な判断を呼びかける声が見られるように思う。電話を我慢することはだいぶ前から一般化している。
人の手が届かないことはある。でも、届き得ることもある。自分は、この社会は何をなすべきか、そのことを尋ね求めながら、この年を歩み進んで行けたらと、期待を込めた祈りをしつつ、そのように願う。
（2024.1.7）